1.
「注文の多いレストラン」って小説があったような気がして調べてみたら、実は「注文の多い料理店」っていう宮沢賢治の小説で、宮沢賢治はあまり好きじゃないしあらすじを読んでなんだか不快になったので、とりあえずいきなりスルー。
そうそう、話はレストランの注文だった。
ここはギラギラする太陽が照りつける南国の島である。昼時になったのでご飯を食べようということになり、タクシーの運ちゃんに日本語発音でレストランの名前を伝えるが通じない。でも、しばらくしたら、「ミッタラ?ミッタラレストラン!」と理解してくれた。ここの国では、英語のcentralは「センタラ」といった具合に発音されるらしい。
その「ミッタラ」(Mitra)というお店に着くと、昼時だというのに閑散としていた。昼間は暑すぎるから、みんな始動するのは夕方からということのようである。夜遊びして昼間は寝て過ごすのがこの島の観光客の過ごし方らしい。
Mitraは、海鮮が名物のローカルっぽいお店だけど観光客にも人気の美味しいお店のようである。太陽光線が痛い。日陰だと少しはましだけど、やっぱり暑い。適当な席に陣取って、とりあえずビールを注文した。運ばれてきたチャーンビールの緑色のボトルが、見ている間にどんどん結露していく。
食事の注文はどうしようか。空のテーブルを挟んだ隣の中国系の家族は、生のパイナップルの器に盛られたチャーハンとか、生牡蠣とか、テーブル一杯に、美味しそうな料理を山盛り注文している。 生牡蠣がおいしそうだったけど、ちょっと頼むのは怖い。ロブスターや魚まるごとは、鮨屋の「時価」的雰囲気である。昼ごはんだしなー。
そこで、海老しんじょうのフライみたいな料理とか、カニのカレーとか、いくつか料理を頼んでみた。海鮮を使った料理は、さすがに島だけあってどれもおいしい。既に、運ばれてきたお皿は、ほとんど空になりそうなんだけど、多分頼んだ焼きそばが来ていない。でも、もうお腹いっぱい。伝票見たら、焼きそば代は請求されていないので注文が通っていなかったようだ。まあいいか。
2.
また別のある日、昼ごはんを食べようと出かけたのだけど、着いたら目指すお店がまだ開店していなかった。がーん。この島の飲食店は午後1時に開店するのがデフォルトなのか。しょうがないので、「お店はここだよー。」と、心配するタクシーの運ちゃんを尻目に、比較的近くにあるショッピングモールまで少し歩いて、その中にあるちょっとオシャーなレストランに入ることにした。
やっぱり、このお店も、真昼はお客さんがあまりいない。少年たちが楽しそうに立ち話をしている。高校生の夏休みのバイトか?いやいや、ここは日本じゃないし、今は夏休みでもない。もしかしたら別の国から来た勤労少年たちなのかもしれない。なんだか和気藹々としていて、とーってもゆるーい雰囲気である。日本で店員さん同士でおしゃべりしていたら、客か怖そうな店長にお目玉を食らうのじゃないだろうか。でも、ロボットみたいにしゃちこばっている店員さんを見るのはちょー苦手なので、これでいいや。
少年たちは、たまにお客さんに呼ばれ、誰かが注文を取りいく。ここでも確か、いっぺんに2つか3つくらいの料理を注文したのだけど、やっぱり1つ来ない。ならば一度の注文は1つだけとしよう。そうしよう。試みてみると、今度は忘れられない。問題なし。
そしてソフトシェルクラブのフライがめっちゃうまい。暑いぞビールもうまいぞ。
3.
やっぱり太陽がギラギラしている。島は「コ」(Ko)である。コパンガン、コナンユアン。折角高速船でビーチの綺麗な島に来たのに、US人ぽい兄さん2人は、最初から食堂にどっかり腰を下ろし、ずーっと話し込みながらビールを呑んでいる。ビーチに入りにきたん違うんかい。最後に通りかかったときは2人の前に10本くらい空のビール瓶(350ミリリットル瓶)が並んでいた。
帰りの船の集合時間が近づいたのだけど、船が遅れているとかで、別のスキューバ・ダイビング用の船に分乗して別の島に寄り、そこのお客さんもピックアップしてから帰ることになったと、ガイドさんが云っている。なんだか今書いていてもよく分からない理由だけど、とにかく、帰りは、予定の時間からは大幅に遅れることになるだろう。日本だとブーブー文句を云う人がいるのだろうけど、ここでは日本の人も含め、誰もそんなことは云わない。予定にはなかった島に行けるんだし、むしろラッキーではなかろうか。
思っていたよりずっと立派な船がやってきた。ここは、マレー半島とインドシナ半島に囲まれた内海なので、波はとても静かである。欧州人ぽい人々が、カヌーで海に漕ぎ出しておる。
余裕、よゆー、と思っているうちに、コタオ、つまりタオ島唯一の港に着いた。港の底の石が見えるくらい、水が澄んでいる。げー、デッキがない、これで陸に上がるのかい、と思ったけど、船の縁に足をかけて、痩せてて小さいけれども、プロとして信頼できる感じの船頭さんに手で引っ張ってもらい、よっこらしょっと無事上陸した。
船着き場から島の中に入ろうとする乗客に向かって、タクシーの運ちゃんたちが「テキシー、テキシー!」と必死に呼びかけている。このあたりのタクシーの人は、呼び込みがあまりにも必死なので、子供を大学生に通わせるために学費をたくさん稼がねばならないのだと思うことにした。でも、大概のお客さんは、宿から迎えが来てるんだけど。あっ、タクシーに乗りたいお客さんがつかまったね。よかったよかった。
灰色の猫が、船着き場の通路のめっちゃ邪魔な位置で伸びている。目が神秘的に真っ青。これが本場のシャム猫さんかー。でもそんな邪魔な位置で寝てたら、そのうち誰かに踏まれるんちゃう、と思っていたら、飼い主らしき近所の子供が猫をどこかへ連れて行った。撤収されるときも、おとなしくだらーんと伸びたままである。
4.
うっかり日焼けしてしまったふくらはぎがめっちゃ痛い。島で入手したきゅうりのジェルを塗ると少しましになっただのけど、機内持ち込み荷物に入れていたら、規定違反ってことで、トランジットの荷物検査で没収され、哀れジェルはゴミ箱へ。えーん。
昨日食べた魚の練り物のせいで、食あたりしたために全く食欲がない。空港のカフェでトランジットの時間を潰すことにした。
カフェアメリカーナを1つ、注文してレジでお金を払う。
…待てど暮らせどコーヒーは来ない。それどころか、レジ裏で店員さん同士、おしゃべりしながらレジのお金を数え始めた。おもむろにレジに進んでレシートを見せながら「カフェアメリカーナ!」と云ったら、頭に赤いリボンでおめかしした店員さんが「きゃーごめんなさい、(奥へ)ちょっと、あんた忘れてるわよ!」って対応してくれたので、ようやくコーヒーがやってきた。ふと、KABA.ちゃんってまだ活躍しているのか?と考える。最近は、TVを全然視ないので知らない。
こうして、「一度の注文は1つだけ」という作戦すらも見事、スワンナプーム空港で失敗に終わったのであった。だけどそれが何だろうか。注文を忘れていたら「忘れているよ」といえばいい。注文を忘れようが、スケジュールどおりに行かなかろうが、今述べてきたとおり、どれもまあいいか、というだけの話である。
だけど、空港では、(もちろん当然の話だが)規定違反のジェルのチューブはきっちり発見して没収するし、さっき述べた島々では、ゴミで環境を汚さないように、ペットボトル持ち込み禁止が徹底されている。正直、沖縄あたりにはもっと珊瑚礁が綺麗な場所はあるように思うけれど、ペットボトル持ち込み厳禁の島は聞いたことがない。
わたしたちの社会は、どうでもいい話を、どうでもよくない話にしてしまって、どうでもよくない話を、どうでもいい話にしてしまっている。何が問題かと問われれば、そちらの方が余程問題だろう、そう答える。
(アイキャッチ画像は、サムイ島の当該レストラン(笑)から見た海です(2016.5)。)
コメントを投稿するにはログインしてください。